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  • takashi suzuki

自律管理型の化学物質管理と個人ばく露濃度計

更新日:2月13日


職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書が提言する「自律管理型の化学物質管理」を理解するうえで、われわれは何から取り組まねばならないかという議論に、私は、労働者の単位操作ごとの「個人ばく露濃度を把握すること」が先決であろうと考えます。


 
職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書

この報告書は政府、労働組合関係者、経営者団体関係者、学会等の専門家による2年間にわたる検討の結果をとりまとめたものであり、

  1. 日本の化学物質管理は法令準拠型である。すなわち限られた特定の物質や作業に対する規制を守ることで行われてきた。

  2. 一方、工場等で日常的に使われている物質は数万種類に上りその用途もさまざまである。

  3. 労働災害の多くは規制されていない物質により発生しており、この中にはがんのような重い健康障害も含まれる。

  4. 規模の小さい事業場での災害発生が多い。

などの現状から、日本でも欧米のような「自律管理型の化学物質管理」の必要性を強調しており、ひいては、現行の特化則および有機則の廃止も視野に入れたものであります。



 

自律管理型の化学物質管理

自律管理型の化学物質管理とは、規制は基本的な枠組みと達成すべき指標だけを示し、具体的な管理手法は事業者が選択決定するということを意味します。


この感覚をご理解できるでしょうか。

前職私は医薬品の原薬を作る会社の工場長をやっていました。そのとき装置の洗浄方法(洗浄バリデーション)に際して、考え方は法令・ガイダンスをもとに、実施法は自ら設定しなさいと言われたことがあります。

この議論を欧米の方としたとき、よく神様(ゴッド)とか聖書(バイブル)というフレーズが出てきたことを覚えています。

その方法であなたは神に誓えますか?ということでしょう。

私見ですが、おそらくこの感覚の根幹には中世の西洋社会における聖職者が神に自分の信仰をprofess(告白する)ことから派生しているのではないでしょうか。

  • 聖職者:神の意志を代弁するもの

  • 法律家(裁判官・弁護士):神に代わって地上の争いごとを裁くもの

  • 医師:神に代わって肉体の苦痛を和らげるもの

われわれエンジニアもしかるべき。と。


さて、現在クリエイトーシンプル、コントロール・バンディングなど、様々な化学物質のリスクアセスメントのツールが開発され公開されていますが、これらは定性的な手法であり、簡単にリスクを見積もることができるという利点の反面、リスクレベルがⅣ、Sなど厳しく見積もられてしまうという欠点もあります。

化学物質の使用の少ない業態の事業所では非常に有効なツールでしょう。

しかし、常時化学物質を扱うファインケミカル、石油化学、印刷などの業態の事業所では

  1. どの化学物質もリスクレベルⅣ、Sと見積もられるため、Ⅳ、Sの意味がぼやけてしまう。

  2. 義務付けを嫌って危険性・有害性の確認強化を十分にせず義務のかからない物質を対策不十分なまま使ってしまう。

  3. その結果、新たな労働災害を引き起こしてしまう。

ということが起こる可能性があります。

つまりは規制とのいたちごっこということです。


 

個人ばく露濃度計 XV‐389

当事務所では新コスモス電機社の個人ばく露濃度計XV-389を保有しています。


これは、

  • 「化学物質の個人ばく露測定のガイドライン」(日本産業衛生学会 制定)に沿った測定が可能。

  • トレンドグラフで、ばく露状態を一目で確認できる。

  • トルエンをはじめ、17種類の化学物質から対象物質を選択可能。選択した物質の気中濃度が警報レベル(TWA、STEL)に達するとブザーやランプでお知らせ。

  • 化学物質の気中濃度の瞬時値、平均値、TWA値(時間加重平均値)、STEL値(短時間ばく露限界値)をリアルタイムに確認可能。2)

などの特徴があり、とても優れものです。


なにより、化学物質の個人ばく露状態を定量的なトレンドグラフで確認ができるので、「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」で強調されている「危険性・有害性情報に基づいたリスクアセスメントの実施と対策を基本とすること。」に対する最大のアイテムであろうと考えます。


 

TWA値(時間加重平均値)、STEL値(短時間ばく露限界値)

XV-389で測定が可能なTWA値、STEL値について説明します。


TWA値(時間加重平均値)

毎日繰り返しばく露したときほとんどの労働者に悪影響がみられないような大気中の物質濃度の時間加重平均値で、通常、労働時間が8時間/日及び40時間/週での値です。


例えばメタノールのTWA値は200ppmです。メタノール濃度が200ppm未満の作業環境であれば、労働時間が8時間/日及び40時間/週で労働しても健康有害性のリスクは許容の範囲内であるということです。

1日ずっとその環境にさらされているというケースは少なく、実際は休憩室や事務所、食堂などにも行くでしょうから、作業環境が200ppmでもTWA値は200ppmを下回ることになると思います。


STEL値(短時間ばく露限界値)

TWAが許容範囲内であっても、労働者が作業中の任意の時間にこの値を超えてばく露してはならない15分間の時間加重平均値です。

例えばメタノールのTWA値は260ppmです。

作業環境が例えば200ppmであったとしても、有害物質の発散源ではもっと濃度が濃いでしょう。したがって発散源の近くで作業をする場合、労働者はもっと濃い濃度でばく露している懸念があります。STEL値はTWA値を補完する関係でもあります。


 

実際の例

XV-389を用いて実際の作業での個人ばく露を測定した例を示します。


この工程は3つの単位操作から構成されています。

まず、タンクからメタノールに溶解した製品を何本かのドラム缶に充填する。

次に、製品を取り出した後の空のタンクをメタノールでかけ洗い洗浄を行う。

最後に、取り出しラインの器具をメタノールで洗浄する。

作業者は胸にXV-389をつけています。



実際の測定結果が下の図です。


充填作業は3時間ほど要しています。

作業環境のメタノール濃度は高くて57ppmくらいであることがわかります。

タンクかけ洗い作業でSTEL値が190ppmまで上昇します。

本日の作業で一番ばく露濃度が高い危険な作業であることがわかります。

その後昼食に行ったり、現場に戻ったりしているようです。

午後から器具の洗浄を行って、事務作業をし、

最後に現場の就業点検をしている様子がわかります。

当日のTWA値は20ppm程度でした。


作業者は社内ルールに従い呼吸用保護具を着用していますが

TWA値は20ppmなので呼吸用保護具の要否については議論の余地があります。

ただし、充填後のタンクのかけ洗い洗浄は濃度が高いので、工学的対策を見直したり、呼吸用保護具を使用した方が良いでしょう。

クリエイト-シンプルとの比較

同作業をクリエイト‐シンプルで定性的な見積もりを行います。

クリエイト-シンプルでは同作業のリスクレベルがⅢ、Sと見積もられます。

特に推定ばく露濃度が実際20ppmだったのに対し、150~1500ppmと最大75倍も高く見積もられています。


最後に、このような結果から定量的な見積もりを可能とする個人ばく露濃度計は、定性的なツールにかわり、化学物質のリスクアセスメントの最大のツールになることが期待されます。

今後、わが国が目指す「自律管理型の化学物質管理」の主役となるでしょう。


1)https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/000807679.pdf

2)https://www.new-cosmos.co.jp/product/2635/



一代技術士事務所 鈴木

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