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  • takashi suzuki

開業の決意

 この度,令和元年6月末日をもって,16年間勤務した化学会社を退職し,個人事務所を立ち上げることにしました.令和元年6月5日私の40歳の誕生日である今日,退職の理由と開業の決意をここに記します.

 私は平成31年3月8日に技術士という国家資格を取得しました.技術士とは5大国家資格の一つでエンジニア資格の最高峰です.技術士法第一条には「この法律は,技術士等の資格を定め,その業務の適正を図り,もつて科学技術の向上と国民経済の発展に資することを目的とする.」とあります.

 技術士にはいくつか制約があり,その中に公益確保の責務(技術士法 第45条の2)というものがあります.技術士は高い職業倫理を有し,公益を確保しつつ業務を進めなければならない.簡単に言うと不適合品を世の中に出してはいけないということです.それに気づいた場合は,明確に指摘しその問題を解決するための修正,改善,設計変更等を助言することです.技術士二次試験模範解答的に述べればこのようなことでしょうか.

 まず,私が会社で行ってきた業務の一つにクレーム対応があります.私はこれまで品質規格に合格はしていますが,傾向異常などグレーな部分を報告書をもってお客様に了承を頂いておりました.またこの業務は報告書1本で顧客を納得させ,会社を守れることができるので,この業務を行うことに悦を感じていました.しかしこの業務は上記,法の目的に反すると私は考えます.

 次に,私は会社員16年のうち8年は工場長を務めました.中小企業は例えば明日出荷だ,明日までにCOAを作成しろ,のような切った貼ったの操業がざらであります.私は中小企業また工場長業務をよく理解しているつもりです.その荊の道を8年間,一技術者としてなんとか切り抜けたものの,上記,法の目的を鑑みると技術士として今後やっていくには少なからず抵抗があります.私は技術士としてこのまま中小企業の工場長が務まるか?事前影響度評価,シナリオ分析を行ってみました.少々過酷な事前影響度評価,シナリオ分析を行いましたが,その結果,絶望的なシナリオが見えてきました.最悪16年間支えてくれた会社に時として弓引く事も考えられます.大切な仲間と正面から争うことも考えられます.

 さらに,近年企業の不祥事が問題になっています.なぜ表面化するか?内部告発によるものでしょう.技術士試験では企業倫理を問われます.私も受験で納期とコンプラのトレードオフの関係をどう乗り越えるかといったトレーニングを受けました.その状況になりましたら最悪内部告発をせざるを得ない立場になります.前述のとおり中小企業は切った貼ったの操業でなんとかしのいでいます.技術は進歩します.業務は膨張する性質を持っています.労働人口は少なくなります.不祥事のリスクは増えます.内部告発の可能性も増えます.内部告発はしたくない.大切な会社と仲間を売るようなことはしたくない.

2か月悩んだ末,自ら身を引く事を考えました.

 補足しますが,これまで我が社が不祥事を起こしたことはありません.私が不祥事を見て見ぬふりをしたこともありません.最悪のシナリオベースで物を言っております.また,では一般の社員はそういうことをしても良いのかということにもなりますが,程度によりますが,従来通り顧客と両社合意の下であれば問題ないことだと思います.あくまで技術者と技術士は違う,法的に技術士は制約があるということです.

 退職を考えた当初,技術士に合格したので開業すると側近の方には申しましたが,それは後付けであり,技術士法を順守するために身を引く,というのが先の理由です.とはいえ上述のとおり会社員はもうできないのでコンサルでもして生計を立てて行こうと思います.有事の際,いわゆる評論家的なあるべき論を述べる,内部告発は正義のような態度は避けたいというのが私のプライドでもあります.

 最後に泣き言を申しますと,私には子供が3人います.家のローンもあります.貯蓄もコネクションもありません.あるのは理解力のある家内と,技術士の資格,会社員時代の経験だけです.本当はやめたくないのですが,技術士全体への信用失墜行為はできませんので決めました.

 これから一世一代の仕事が始まります.さぁ,頑張ろう.子供のために,家内のために,自分のために,そして公衆の利益のために.

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