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  • takashi suzuki

静電気事故に学ぶリスクコミュニケーション

化学工場の事故の大半は静電気爆発・静電気着火によるものである.各社静電気事故防止細則を定め,対策を行っているのにもかかわらず毎年同様の事故が発生している.これはどういうことであろうか.

私も工場長在職中,数回の静電気事故を経験している.従来の細則順守といったソフト面のみで実施されていた自社静電気対策では不十分であるとの考えから,自社で初めてハード対策としてイオナイザーを導入した.しかし導入初期に本来安全な職場を実現する目的で導入したイオナイザーを使おうとするものは少なく,事故の当事者ですら疑いのまなざしであった.この現場との意識のミスマッチの原因を自身のコミュニケーションの欠如であったと省察している.事故当時,どうしたら安全な職場を取り戻せるか,セミナーを受講したり,イオナイザーメーカーに出向き意見を交わしたり,無我夢中であったのを記憶している.とにかく視野狭窄になっていた.そのような中で私が出した答えがイオナイザーの導入であったが,導入までのプロセスを知らない従業員から理解を得られるわけはなく,意識並びに機器の定着を感じられるまでには1年の歳月を要した.時間と忍耐を要した1年であり,初期の自身のコミュニケーション不足を後悔した.

あらためてリスクコミュニケーションについて理解を深めてみる.米国立研究審議会の定義によるとリスクコミュニケーションとは「利害関係者間のリスクに関する情報と意見交換による相互作用の過程」とある.単にリスクについて誰かに教えたり,リスクが小さいことを納得させたり,専門家やトップ同士が話し合うことでは決してない.技術者,研究者または工場のトップがステークホルダー(工場の従業員を含む利害関係者)と成果やリスクについて,双方向コミュニケーションすることがリスクコミュニケーションと言えよう.

 従業員との対話を通して構築した静電気防止対策の中で私が感じたことは,従業員の中には必ず意識格差があるということである.従業員の立場になって考えれば,これまで彼らが経験し考えたことが全てであろう.目に見えない,臭いがない,知識がないものは問題ないと錯覚するケースもあれば,正しく理解がなされていないがゆえにデマが流れ,必要以上にパニックに陥るケースや,亜流の対策でできていると錯覚しているケースもある.

国内化学工場が静電気事故を繰り返す理由はリスクコミュニケーションが欠如している為ではないのか.もう一度化学工場の管理方法について問いたい.リスクコミュニケーションはできているか?工場長はじめトップは従業員に正しい教育を行っているか? 課長,主任などミドルクラスは積極的に事故防止を目的としたリスク抽出を行っているか?現場担当者は知らないことを良しとしていないか?生産活動という御旗を盾に安全対策を軽視していないか?

行ってきますと言って家を出た全ての人が,ただいまと言って家に帰る,そんな当たり前の社会を実現するために私はこれからも全力を尽くしたい.


SDGs ターゲット 8.8

(移住労働者,特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など,)全ての労働者の権利を保護し,安全・安心な労働環境を促進する.

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