先輩:(後輩に)これ洗っとけ.
後輩:洗い終わりました.
先輩:まだ汚れているだろう.もう一回ちゃんと洗え.
そんな光景をよく見る.私も新人の頃言われたし,後輩ができたらそんなことを言った.
まるで姑が障子の桟のほこりを指で拭って嫁をいびっている状況とよく似ている.
まず,洗浄とは何か.洗浄が終わったとはどういう状態であるか.考えてみたい.
私が考えるに洗浄とは,汚れ(残渣,交叉汚染物質)を管理されたレベルまで除去することであろう.
一方,洗浄確認とは汚れ(残渣,交叉汚染物質)の残存が,次使用する時,問題のない閾値以下であることを確認することであろう.前述の件は先輩が厳しいのか,後輩が甘いのか,姑が嫁をいびっているのか,まず次使用する時,問題のない閾値以下であるか判断基準が乏しく,属人化しているようにも感じる.
次に,洗浄はなぜ必要か.普遍的な理由には①次使用する時,汚れ(残渣,交叉汚染物質)が混入する.②汚れ(残渣,交叉汚染物質)が分解して,分解物が発生する.③微生物が繁殖して,危害の原因となる.がある.もし仮に,この3つにあてはまらないのであれば洗浄する必要はない.前述の件では,先輩は正しい.嫁は悪くない.となるだろうか.
さらに,洗浄は安全,品質のリスクの予防ともいえる.つまり,次使用するものの品質低下,交叉汚染の原因,患者への影響といったことに対するリスク管理である.
どうしたら効率よく洗浄できるか.洗浄の原理,機構について調査したところ,横浜国立大学大矢勝教授のHPにその答えがあった.大矢教授のHPによると
洗浄の原理は①分離型洗浄、②溶解型洗浄、③分解型洗浄の3種のメカニズムに分けられるようである.http://www.detergent.jp/kaisetsu2/01basic/01patern.html
①分離型洗浄は家庭用洗剤のCMなどでよく見る,界面活性剤やアルカリ剤の作用で汚れを固まりの状態で引き剥がして除去するものである。
②溶解型洗浄は汚れの分子間の結合力が弱まり、汚れは結晶等を形成せずに分子単位でばらばらの状態になり、水や有機溶剤などに溶解して除去される。水での溶解洗浄は最も簡単な洗浄であるが、一般には弱酸、弱アルカリ、酸化剤等を利用して溶解力を高めたり、または有機溶剤を用いるなどの方法で洗浄するものである。我々化学工場での洗浄は一般的に溶解型洗浄であろう.ただし汚れの残留0ということは不可能に近い.あくまでも管理されたレベルまで落とすことが目的である.
③分解型洗浄は分子の内部を破壊して、汚れを汚れではないもの、または非常に除去しやすい汚れに変化させて除去する。有機物の汚れであれば、二酸化炭素と水にまで分解することを目指すタイプであるが、通常の洗浄では、そこまでの強力な分解作用は必要としない。
また上記,化学的な洗浄の他に力学的なこすり洗いというものがあるが,手洗浄は当然信頼性に乏しい.
3種の洗浄パターンの中で洗浄の効率からみて最も望ましいのは分解型洗浄であり、次に溶解型洗浄、そして分離型洗浄はあまり望ましくないようである。分解型洗浄では汚れ自体を無くしてしまうものであり、100%の除去を達成することが比較的容易だそうだ。溶解型洗浄では溶解した汚れが残留することが問題となりやすいので、すすぎの効率を高める等の工夫が求められる。分離型洗浄では汚れの分離自体が比較的難しく、また分離した汚れの再付着にも注意を払う必要がある。
残留量はどれくらい許容されるのかということについて次回考えてみたい.
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