HAZOPとは
化学プラントは、設計意図どおりの状態を維持できれば「安全」です。一方、設計意図とは異なる状態「ずれ」が発生すれば事故につながります。よって、想定できる「ずれ」を事前に把握し、「ずれ」の発生自体を防止するか、あるいは「ずれ」から危険な状態や事故への発展を阻止すれば、プラントの安全は維持できます。という思想がHAZOPの起点です。
HAZOP(Hazard and Operability Study)とはシステム工学的手法の一つで、化学プラント を対象とするリスク評価を目的に開発された手法です。ここでシステム工学的手法とはシステムを構成するモノ、設備、人が、事故原因や危険因子としてどのようにかかわってくるか、どのような結果に繋がるか、どのような対策が必要かを体系的に考える手法のことです。
システム工学的手法にはHAZOPの他に特性要因図、FTA、FMEAなどが知られています。このなかでHAZOPはシステムの状態変位に対して、構成要素のかかわり方を知るのに有効な手法です。
HAZOPの概要
HAZOPは、潜在危険性の特定する際に、抜け・漏れがないように11語のHAZOPのガイドワード(表1)とプロセス運転条件(管理項目)を組み合わせ、通常状態との「ずれ」に着目します。たとえば温度や圧力、流量、時間などの特性を表すパラメータ(管理項目)に対して、それが適切な値から「ずれ」た場合の影響がどのような良くない結果につながるのかを体系的に解析できます。
HAZOPの特徴
HAZOPの特徴を以下に示します。
ガイドワードを使って設計意図,利用意図からの「ずれ」の洗い出しが可能。
システムの状態変位に対して、構成要素のかかわり方を知るのに有効。
体系的に解析を進める構造化されたブレーンストーミング法。
単一事象の故障/トラブルの解析に適用(複合事象による事故には使えない)。
網羅的に検討を進めることができるため、解析に時間を要する一方で、潜在的危険性を見落とす可能性は極めて少ない。
プロセス異常に対するイメージトレーニングのツールとしても有効。
FTAのトップ事象の選定に有効。
HAZOPの例
まず、パラメータに対して、「ガイドワード」と呼ばれるシンプルな言葉をつかって、ガイドワードの示す想定に回答しながら解析していきます。たとえば、ガイドワード「ない(No/None)」とか「多い(More)」などを、パラメータごとにあてはめ、適切な値からずれた場合の原因を想定します。
次に、原因が抽出できたらプラントに対してどのような良くない結果につながるか影響を検討します。故障などのエラーを放置したときに想定される結果、潜在な危険性を想定することが重要です。
さらに、現在、異常発生時に事故や危険事象に進展させない影響緩和策や防護策があるかを確認し、ない場合はどのようなアクションが必要かという検討へ移行します(表2)。
このガイドワード方式が有効な理由は、単に特性を表すパラメータ(管理項目)を「温度」として眺めるだけでは、「高い(More)」「低い(Less)」という事象しか思い浮かびませんが、ガイドワードに「繰返し(Reverse)」があった場合、温度の繰り返しとは何だろう、制御弁のON/OFF逆転はないかなど別の事象を考え出すきっかけにもなり、いわゆる想定外を減らすことができます。
HAZOP実施時のポイント
保全、設計、オペレーター、品質保証などさまざまな専門家を集めて、フラットな意見を取り入れること。
生産部門だけが解析する場合、思い込みでリスクの大きさやシナリオの種類を決めつけてしまう可能性がでてきます。
網羅性を高めることが重要です。他人の意見を批判せず、質より量でできるだけ多くのアイデアを出し、そこから新しいアイデアを連想・結合・発展させます。
ガイドワードは、業種・業態ごとに異なりますので、必ず11語全て使う必要はなく、事前にある程度定めておくことが重要です。
最後に、HAZOPは高度なワークシートの作成が目的ではありません。身の丈レベルからはじめ、仲間とのコミュニケーションを通して改善につなげていくことがもっとも重要かと思います。人材が流動的になりつつあるこの時代こそ、検討は言語化して暗黙知から形式知化していきましょう。
一代技術士事務所 鈴木
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