皆様、こんにちは。
労働安全コンサルタントの鈴木です。
現場の安全意識向上戦略について考えて行きたいと思います。
最初に一つ、質問をさせてください。
皆さんは仕事中に危ないと感じる瞬間や経験はないでしょうか。
こちらをご覧ください。
溶剤系の塗料で塗装をしている人がいます。作業着は塗料で汚れています。
ひどい臭気ですが気にした様子もなく呼吸用保護具もつけていません。
これはあるべき姿でしょうか。
建屋の入口にひさしを取り付ける工事をしている人がいます。
フォークリフトのフォークを5段積みしたパレットに差し込み、それを足場として利用しています。
明らかにフォークリフトを用途外で使用しています。
高所作業にもかかわらず墜落防止措置を講じていないようです。
作業計画はあったのでしょうか。
荷物を運んでいる人がいます。前が見えないほどの大型のダンボールを手で運搬しています。運搬通路にはパイプが放置してあります。かたづけが、されていないで出しっぱなしなのでしょうか。荷がほどけて転がってきてしまったのでしょうか。
つまづいて転んでしまいそうです。
これらはすべて不安全行動です。不安全行動は、まさに事故の種であり、これを放置すれば、いつか大きな災害に繋がる可能性があります。
逆に言えば、不安全行動をしっかりと捉えることで、自分の行動は不安全行動だと認識することで、事故や労働災害のリスクを大幅に減少させることができるのです。
仏教には「善因善果・悪因悪果」という教えがあります。
これは、良い行いからは、良い結果が起こり、逆に悪い行いからは、悪い結果が起こる、つまり、自らの行いの結果は、自分に返ってくるというもので、私たちの現在の行いが、自身のその後の運命を決め、その結果は、全て自分自身に返ってくるのだと説いています。
厚生労働省の職場のあんぜんサイトによれば、不安全行動とは、労働者本人または関係者の安全を阻害する可能性のある行動を意図的に行う行為。とされています。
手間や労力、時間やコストを省くことを優先し、つい
「これくらいは大丈夫だろう」
「面倒くさい」
「皆がやっているから」
「(作業を早く進めるためには)仕方がない」などと考えたり、
「長年経験しているから大丈夫」
「自分が事故を起こすはずはない」
など、慣れや過信から、「あるべき姿」を逸脱する安易な行動がとられた結果、労働災害に発展するケースが少なくありません。
なお、自らとった行動が、意図しない結果をもたらすことは「ヒューマンエラー」といいます。
事故の発生をモデル化したものに、スイスチーズモデルというものがあります。
スイスチーズモデルとはスイスチーズを安全対策、チーズの穴を脆弱な部分にたとえた考え方です。
エラーがすべての穴を通り抜けると、それは事故・トラブルへと発展してしまうものです。
いま、ここに、危険源があったとします。
しかし危険源があったとしても、いますぐ、事故につながるかといったらそうではないと思います。
私たちの職場には危険源を事故にさせないような幾重もの防護壁があるからです。
この防護壁が、チーズとして表現されています。
例えば、今ここに毒性の強い化学物質があったとします。
吸い込んだら健康を損なってしまいます。しかし、そうならないよう、私たちの職場には、工学的な対策、局所排気装置、ドラフトの中で作業しようよ。
という防護壁があるでしょう。
また、管理的対策、作業者以外は立ち入らないようなルールで災害を防ごうよ。
という防護壁があるでしょう。
また、教育的な対策、定期的に座学、OJT、など、教育訓練をして災害を防ごうよ。
という防護壁があるでしょう。
さらに、現場の小集団活動、ヒヤリハット、KYTなどをおこなって災害を防ごうよ。
という防護壁があるでしょう。
理想的な世界では、各防御壁は無傷で強固なものですが、実際には、それらはスイスチーズのスライスのようなもので、多くの穴があります。
ただし、チーズとは異なり、これらの穴は絶えず開閉し、位置を変えています。
1つの防護壁に穴、脆弱な部分が存在しても、通常は悪い結果にはなりません。
しかし、多くの防護壁の穴が瞬間的に並んでしまった場合に私たちに良くない結果をもたらす可能性があります。
防御の穴は、アクティブな障害と潜在的な状態という2つの理由で発生します。
この防護壁を劣化させるのも、穴を大きくさせるのも人、であります。
つまり私たちは弱くなった壁、大きくなった穴を早期に見つけて補修しなくてはならないというわけです。
そういった活動はできているでしょうか。
安全に対する意識が薄れてしまっていないでしょうか?
「安全教育」は、効果的にできているでしょうか?
組織内の問題は、往々にして関連する人々の直接的、または、間接的な過失から生じます。しかしながら、このような問題の背後には、破損や劣化した壁が存在していることがよくあります。
このような壁は、組織の運営上の欠点によってさらに弱くなり、時として完全に消失することもあります。
これが私たちのミスの主な原因となるのです。
つまり、事故などを起こしてしまうのは、残念ながら当事者であり、問題が顕在化するとその人が怒られたり、責任を取らされたり、
結果ばかりがクローズアップされがちですが、そもそも組織には事故、トラブル、不祥事等を起こさないようなハード対策、ソフト対策、マネジメントがあったはずではなかったでしょうか。
それが機能しなかったのはなぜでしょうか。
見て、見ぬふりをしていなかったでしょうか?安全への意識が薄れていなかったでしょうか。引き金を引いてしまったのは当事者です。
しかし、引き金を引かせてしまった、引き金を引くように、誘引させてしまったのは組織の問題ともいえます。
スイスチーズモデルは、複数の安全対策が連続して配置されており、各層の穴が重ならない限り、事故は防げるとされています。
しかし、確信犯的な行動や「正常化の偏見」などの人的要因がある場合、これらはスイスチーズモデルの穴を大きくする、もしくは防護壁、安全対策を無効化し、事故発生のリスクを高める要因となります。確信犯的な行動は、意図的に安全規則を無視することで、事故への経路を作り出すことがあります。また正常化の偏見は、危険が日常化し、それを正常と認識してしまうことで、リスクへの感度が低下し、事故へとつながるというものです。
このように、事故防止のためには、これら組織的要因と人的要因を含めた総合的なリスク管理が重要となります。
「安全第一」を継続することを難しくする理由です。
事業者は、労働安全衛生法59条に従い、常時、臨時、雇用形態を問わず労働者を雇い入れたとき、又は労働者の作業内容を変更したときは、当該労働者に対し、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行う必要があります。
皆さんの職場でもおやりになっていると思います。
例えば、
通路に物をおいてはいけません。転倒災害がおきます。
足場板の隙間をなくしなさい。昇降部の段差をなくしなさい。墜落災害が起きます。
セメントミキサーの蓋はかぶせて使用しなさい。挟まれ巻き込まれ災害が起きます。
入場時教育で最初の「定着」には取り組んでいるものの
徐々に自分流、マイルールが進み、安全意識が薄れてしまう、継続させる取り組みに手が回ってないなど、良く聞く話です。
これは一体どういうことなのでしょうか。なぜ起こってしまうのでしょうか。
このようなケースを深掘りしていくにはなぜなぜ分析が良いと思います。
「なぜなぜ分析」とは、問題や現象の原因を明らかにするために、連続して「なぜ?」と問いかける手法です。
安全教育が効果的に進められない理由をなぜなぜ分析で顕在化させましょう。
なぜ、入場時教育で最初の「定着」には取り組んでいるが徐々に自分流が進み安全意識が薄れてしまうのか?
なぜ1→従業員が入場時教育で学んだ内容を日常業務で実践しにくいか、または日常業務が教育内容と異なるため。
なぜ2→教育プログラムが実際の業務環境や課題を十分に反映していない可能性があるため。
なぜ3→教育プログラムの作成時に、現場の従業員のフィードバックや実際の作業環境の詳細が考慮されていない可能性があるため。
なぜ4→教育プログラムの開発者と現場従業員との間にコミュニケーションの障壁が存在し、実際の業務のニーズが正確に伝えられていないか、理解されていない可能性がある。
これは一つの例であって、必ず根本原因に行きつくものではありませんが、
入場時教育のプログラムが現場を反映していないものであったら、そもそも守れと言っても無理がありますよね。解決策としては、現場従業員のフィードバックを取り入れて教育内容を業務実態に合わせ、定期的なレビューでプログラムを更新することがあります。つまり、安全教育が効果的に進めるためには現場と双方向のコミュニケーションが必要ということです。
安全教育が効果的に進められない理由はそれだけではないと思います。
同じ内容でもう一度、なぜなぜ分析をやってみましょう。
その他の原因も顕在化させることができます。
なぜ、入場時教育で最初の「定着」には取り組んでいるが徐々に自分流が進み安全意識が薄れてしまうのか?
なぜ1→従業員が時間の経過とともに初期の教育内容を忘れ、またはそれを無視し始めるため。
なぜ2→定期的なフォローアップやリフレッシャートレーニングが不足しているか、存在しないため。
なぜ3→教育計画において長期的な継続教育や従業員のスキル維持が考慮されていない可能性があるため。
なぜ4→教育計画の策定者が従業員の長期的な学習ニーズと職場の動的環境を理解していないか、重視していない可能性がある。
初期教育後のフォローアップとスキルリフレッシュの不足が問題の原因である可能性があります。スキルリフレッシュとは最低限の基本的なスキルをおさらいしながら感覚を取り戻していくことを言います。
安全教育においてスキルのリフレッシュは非常に重要です。
なぜなら、初期のトレーニングや教育だけでは、時間が経過するにつれて得られた知識やスキルが低下し、忘れられてしまう可能性が高いからです。
特に、危険なものを危険と認識するセンスや、緊急時に求められるような反応や手順は、定期的に練習しないと身につきません
スキルリフレッシュのための定期的なフォローアップやリフレッシャートレーニングは、初期トレーニングで習得した知識を強化し、新たな情報や技術の更新を提供する機会を提供します。これにより、従業員は最新の安全基準や手順を維持し、応用する能力を高めることができます。
また、リフレッシャートレーニングは、従業員が安全に対する意識を高める機会ともなります。日々の業務に追われる中で、安全に対する意識が薄れがちですが、定期的なトレーニングによって、安全を優先する文化を育むことができます。
さらに、リフレッシャートレーニングは、従業員間のコミュニケーションと協力を促進する場となりえます。共通のトレーニング体験を通じて、チームワークを強化し、職場の安全文化を築くことが可能です。
総じて、スキルリフレッシュのためのリフレッシャートレーニングは、安全教育の持続的な効果を確保し、職場の安全意識を向上させるために不可欠な要素です。
解決策として、教育計画に継続的な教育を取り入れ、従業員が安全意識を維持できるようにすることが重要です。これを実現するには、教育策定者が従業員のニーズと職場環境の変化を敏感に把握することが必要です。また教育訓練者のリソースも考えなければなりません。
もっと出てきそうです。同じ内容でもう一度なぜなぜ分析をやってみましょう。
その他の原因も顕在化させてみましょう。
なぜ、入場時教育で最初の「定着」には取り組んでいるが徐々に自分流が進み安全意識が薄れてしまうのか?
なぜ1→従業員が時間が経つにつれて、初期の教育内容を守ることの重要性を感じなくなるため
なぜ2→定期的なリマインダーやフォローアップが不足しているため、初期の教育が徐々に忘れ去られるため。
なぜ3→教育プログラムが一度限りのイベントとして設計されており、継続的な学習や再教育の機会が組み込まれていないため。
なぜ4→教育プログラムの策定者が従業員の学習プロセスと職場の継続的な安全文化の維持に対する理解が不足している。
入場時教育が一度きりのイベントとして設計されていたとしたら従業員の安全意識が徐々に薄れてしまいますよね。
安全教育の効果を持続させるためには、定期的なリマインダーやフォローアップが不可欠です。これらの手段は、教育内容を従業員の記憶に定着させ、安全意識を常に高いレベルで維持することを目的としています。
定期的なリマインダーは、安全プロトコルや手順を従業員に繰り返し思い出させる役割を果たします。これは特に、日常の業務において安全が後回しにされがちな環境で重要です。朝礼や職場巡視で定期的に簡潔なメッセージを送る、ビジュアルエイド、または緊急時の対応プロセスの要点を示したポスターなどにより、重要な安全情報を常に意識の表面に保つことができます。
解決策としては、教育プログラムに継続的な学習と安全意識の維持の要素を取り入れ、教育策定者が従業員の学習ニーズと職場文化の維持に対して深く理解することが必要です。つまり、くり返し何度もやる、継続的な学習と成長のプロセスとして安全教育を位置づけることを意味します。
なぜなぜ分析で顕在化させた「安全第一」を継続することを難しくする理由としては、次のようなことがあるのではないでしょうか。
資源の不足
適切な安全対策を維持するためには、しばしば追加の財政的資源、人材、時間が必要です。これらが不足している場合、組織は安全基準の維持に苦労することがあります。
組織文化の問題
企業や組織の文化が短期的な生産性や利益を重視し、長期的な安全性を軽視している場合、安全は犠牲になりがちです。
教育と訓練の欠如
従業員に対する適切な安全教育や訓練が不足している場合、彼らは安全に関するベストプラクティスを理解し、適用することが困難になります。
規制の変化または遵守の欠如
安全基準は規制によってしばしば支えられていますが、これらの規制が変わるか、または適切に遵守されない場合、安全が損なわれることがあります。
技術的な課題
特に新しい技術やプロセスを導入する際には、未知のリスクや安全上の問題が発生する可能性があります。
コミュニケーションの断絶
組織内のコミュニケーションの欠如・断絶は、安全情報の共有を妨げ、事故を引き起こす原因となることがあります。
安全意識を形骸化させない安全教育の進め方と取り組み事例です。
さきほど、なぜなぜ分析で顕在化させた「安全第一」を継続することを難しくする理由をもとに、安全意識を形骸化させない安全教育の進め方を考えると次のようなことが考えられます。
1. 実践的なトレーニングとシミュレーション
2. 継続的な学習とフォローアップ
3. 従業員の参加とフィードバックの促進
4. 文化の構築とリーダーシップの強化
5. インセンティブと説明責任
6. テクノロジーとイノベーションの活用
7. 透明性とコミュニケーション
これらをそれぞれ見ていきましょう。
1.実践的なトレーニングとシミュレーションです。
安全教育においては、ただ単に理論を教えるのではなく、実際の作業環境を想定した実践的なトレーニングやシミュレーションを取り入れることが重要です。この手法は、従業員に対して理論的な知識だけでなく、実際の技能を身につけさせることを目的としています。具体的には、まず業務分析を行い、現場で発生しうる事故や状況を洗い出します。これに基づき、現実に即したトレーニング内容を策定し、実際の作業環境を再現したシナリオを用いたトレーニングを実施します。ここでは、機器の操作方法から緊急時の対応プロセス、事故発生時の適切な対応方法まで、幅広い知識と技能が教育されます。さらに、ロールプレイを通じて、実際の作業環境での対人関係やコミュニケーションの問題についても体験し、それに対処する能力を養うことができます。このようにして、安全教育を形骸化させることなく、実際の作業環境で役立つ実践的なスキルを従業員に身につけさせることが可能となります。安全意識をただの規則や指示としてではなく、実際の行動として組織内に根付かせるためには、このような実践的アプローチが不可欠です。
2.継続的な学習とフォローアップです
安全教育を効果的に行うためには、従業員が最新の安全基準と手法を継続的に学び、理解することが重要です。これを実現する方法として、以下のような取り組みがあります。まず、年に一度、または必要に応じてそれ以上に、安全教育のリフレッシュコースを設けます。これには新しい規制や安全慣行の更新を含めることが重要です。また、従業員が自分のペースで学ぶことができるように、オンライン学習プラットフォームや学習管理システムを提供します。これにはビデオチュートリアルやインタラクティブなクイズ、仮想ラボなどが含まれます。安全に関する情報は、ニュースレターや社内イントラネット、掲示板を通じて定期的に配信します。
さらに、経験豊富な従業員がメンターやコーチとして、新入社員や他の従業員に個別の指導を行うことも大切です。これらの取り組みによって、従業員が安全意識を高く保ちながら、効果的に学び続けることができるでしょう。
3.従業員の参加とフィードバックの促進です。
安全教育を実効性あるものにするためには、従業員の積極的な参加とフィードバックの促進が不可欠です。具体的には、従業員が安全教育プログラムの開発に参加することで、彼らの経験とフィードバックがプログラムに反映され、教育内容が実際の職場環境に適合するようにします。また、従業員からの意見を収集するために、定期的なアンケートや意見箱を設置します。これにより、彼らの直接的な声を聞くことが可能になります。
さらに、全社を対象としたタウンホールミーティング、全社会議を定期的に開催し、経営層が従業員の質問に答え、フィードバックを受け取る機会を設けます。これに加えて、安全やトレーニングに関連する特定のトピックについて従業員のフォーカスグループを組織し、深いディスカッションを行います。全社会議は社員旅行とあわせて開催する会社もありますね。
安全衛生委員会への従業員の参加も促し、労働安全衛生に関する議論や意思決定に彼らが直接影響を与えられるようにします。さらに、改善提案を奨励するプログラムを導入し、実用的なアイデアを提案した従業員には報酬を与えます。
直属の上司による定期的な1対1のチェックインも重要で、これにより職場の安全に関する従業員のフィードバックを直接収集します。また、従業員が安全トレーニングプログラムの共同開発に関わることで、彼らの現場経験が反映された内容のプログラムが作成されます。
さらに、透明性のあるコミュニケーションを心がけ、安全に関連するデータや事故報告、改善の進捗を全社的に共有します。これにより、全員が情報に基づいて議論に参加できる環境を作り出すことができます。このように、従業員の参加とフィードバックを促進することで、安全教育は形骸化せず、現場の現実に即した効果的なものとなります。従業員が安全に関する意識を高めることは、組織全体の安全文化の向上に寄与し、最終的には職場の安全性を高めることにつながります
4.文化の構築とリーダーシップの強化です。
安全教育を成功させるためには、企業文化の構築とリーダーシップの強化が不可欠です。トップマネジメントは安全を最優先事項として位置づけ、全ての意思決定で安全を第一に考慮します。率先垂範。リーダーは日々の行動で安全慣行を実践し、規則の遵守を通して模範を示すことが重要です。マネジメント層にはリーダーシップと安全文化に関する特別な研修を実施し、彼らの理解とコミットメントを深めます。
企業のミッションステートメントや価値観に安全を明確に組み込み、人事プロセス全体で安全意識を重視します。明確な安全目標を設定し、組織全体で共有することで、目標達成に向けた進捗を定期的にレビューします。従業員が安全に関連する問題や懸念をオープンに話せる環境を整え、安全な行動を示した従業員を認め、報奨することで、肯定的な行動を促進します。また、事故やインシデントが発生した場合には、それを隠すことなく、学習の機会として組織全体で共有することが大切です。このようにして、安全意識を形骸化させず、企業文化として根付かせることができます。
5.インセンティブと説明責任です。
安全意識を実効的に高めるための教育は、インセンティブと説明責任を重視します。
信賞必罰。これは安全慣行を遵守するための報酬を提供し、安全違反に対しては適切な責任を問うことを意味します。まず、全従業員が理解しやすい明確な安全基準を設定します。安全目標達成には金銭的報酬、表彰、キャリアアップの機会などを含むインセンティブプログラムを導入します。また、安全規則違反や確信的な行動によって起こった事故に対する責任を問うシステムを確立し、一貫して適用します。定期的なフィードバックセッションを通じて、個人やチームの安全パフォーマンスを評価します。安全パフォーマンスに関するレポートを定期的に作成し、組織全体で共有します。安全行動を積極的に認め、肯定的なフィードバックを提供することで、行動を強化します。リスクテイクを避けるための教育を行い、年次のパフォーマンス評価に安全目標達成を組み込みます。
さらに、安全基準に達していない行動や事故を引き起こした従業員には、再教育、職務の変更、場合によっては懲戒処分を行います。これらの措置により、安全意識の形骸化を防ぎ、効果的な安全教育を推進します。
6.テクノロジーとイノベーションの活用です。
安全教育を形骸化させないためには、テクノロジーとイノベーションの活用が鍵となります。最新のテクノロジー、例えばVR/ARトレーニング、モバイル学習アプリなどを使用し、教育体験をよりエンゲージングで効果的なものにします。Eラーニングプラットフォーム、オンラインコース、ウェビナーを活用し、従業員がどこでも安全教育を受けられるようにすることが重要です。また、スマートフォンやタブレット用の安全トレーニングアプリを開発し、手軽にアクセスして学べるようにします。仮想現実VRと拡張現実ARを活用することで、リスクのある環境や緊急時のシミュレーションを作成し、従業員が実際のリスクを伴わずに安全手順を練習できるようにします。ウェアラブルデバイスの導入により、従業員の健康状態や環境の安全性をリアルタイムでモニタリングすることも可能です。
さらに、収集したデータを分析してリスクを特定し、AIを用いて安全トレーニングをカスタマイズすることで、より効果的な教育が実現できます。学習をゲームのように楽しめるゲーミフィケーションの導入も、従業員のモチベーションを高めるために有効です。また、安全手順や緊急対応のトレーニングにシミュレーションソフトウェアを使用することで、より実践に近い体験を提供します。
7.透明性とコミュニケーションです。
安全意識を形骸化させない安全教育の進め方には透明性とコミュニケーションがあります。透明性とコミュニケーションとは安全関連の事故やニアミスの事例を共有し、何がうまく行ったか、何が改善される必要があるかをオープンに議論することです。
オープンなコミュニケーションチャネルの確立について、従業員が意見や懸念を自由に表現できるように、多様なコミュニケーションチャネルを提供します。これには、内部SNS、会議、直接対話、アンケートなどが含まれます。また、定期的な安全会議やブリーフィングを開催し、安全に関する最新の情報、政策、事件を共有することで、従業員の安全意識を高めます。ブリーフィングとは、特定の情報や指示を短時間で効率的に伝えるための会議や情報セッションのことです。
さらに、安全パフォーマンスの公開を通じて、安全記録、事故統計、監査結果を透明に共有し、組織全体の透明性を高めます。
フィードバックの積極的な要求と応答も重要です。従業員からのフィードバックを積極的に求め、迅速かつ具体的に応答することで、信頼関係を築き、組織全体の改善につなげます。最後に、透明性の文化を醸成するために、経営層からフロントラインの従業員まで、全員が情報を共有し、誠実に行動することを奨励します。これらの取り組みを通じて、従業員が安心して働ける環境を作り出し、組織全体の生産性と効率性を向上させます。
安全管理の教育では、しばしば知識中心のアプローチがとられがちです。
ヒヤリハットの事例や過去の事故事例を詳細に分析する際、問題が、「知らなかった」ためなのか、「実行できなかった」ためなのか、あるいは「行動しなかった」ためなのか、またはこれらの組み合わせに起因するものなのかをしっかりと特定することが重要です。
その結果を基に、事業所や自分の職場の弱点を考慮し、適切な教育方針を策定し、継続的な教育や指導を行うことが求められます。
① 知識教育
正しい知識を、きちんと、わかりやすく、言葉で伝えることが大切です。
教育・指導担当者は工場作業の基礎知識、具体的に取り扱う装置、設備の構造、機能、ならびに取扱い時の注意点等をよく学んでおく必要があります。
実際の知識教育の際は、自社マニュアルを教材に使うことが望ましいです。
② 技能教育
「できなかった」を無くすためには、十分な力量、つまり十分な知識と技能のある、教育担当者のOJTを通して取扱い方法を教育します。
必ず作業手順書、マニュアルをきちんと整えておくことが前提です。
作業手順書が完成したときには、安全衛生、品質、効率、それぞれの要因を踏まえたバランスの取れた手順書であるかどうかを確認する必要があります。
③ 態度教育
法令を遵守した行動をとること。
ただし法令の遵守だけでは労働災害、ほか、不祥事の予防には限界があり、自組織の自律的な管理が求められます。
組織規則を遵守した行動をとること。
ただし窮屈な規則のイチ備えではなく日々の業務において意思決定の、よき、ツールで活用することが重要です。
常に倫理的行動を意識し、様々な価値観の中で、我々が良く生きるために、どう意思決定し、どう行動していくかを常に考えていきます。
さいご、まとめです
安全教育は適正な作業管理を行い、お互いの信頼関係を築くためのツール、とも言えます。
災害を未然に防ぐためには、労働災害を撲滅するには、関わるすべての人が危険に関する知識を持ち合わせ、それを共有することが重要です。
この知識の共有の過程をリスクコミュニケーションと呼びます。
わざと事故や失敗を招きたいと思う人はいません。
しかし、情報が足りないと、予期しない問題が生じてしまうこともあるでしょう。
まずは、情報の提供と共有からスタートしましょう。
詳しく説明することで、従業員もリスクの本質を捉えるはずです。
リスクを理解した従業員からは、具体的な疑問や提案が生まれるでしょう。
そのフィードバックは、皆さんの気づきや改善の糸口となるでしょう。
そのような疑問や提案には、きちんと答えることで、更なる理解が深まるでしょう。
そして、従業員からの提案や新しいアイディアは、皆さんにとって、新しい発見や改善の機会となるかもしれません。
このような、ポジティブなサイクルが、安全で信頼される作業環境を築く鍵となります。
米国立研究審議会の定義によるとリスクコミュニケーションとは
「利害関係者間のリスクに関する情報と意見交換による、相互作用の過程」とあります。
単にリスクについて誰かに教えたり、リスクが小さいことを納得させたり、専門家やトップ同士が話し合うことでは決してありません。
技術者・研究者、または工場のトップが工場の従業員を含む、利害関係者と成果やリスクについて、双方向のコミュニケーションすることがリスクコミュニケーションです。
近頃の従業員は意思疎通ができない、コミュニケーションができない、などというお話をよく耳にしますが
コミュニケーションとは・・・
社会生活を営む人間の間に行われる知覚・感情・思考の伝達、言語・文字、その他視覚・聴覚に訴える各種のものを媒介する、合意でも説得でもなく・・・
信頼関係の構築につきます。
職場の安全は、製造ラインや安全担当部門だけで作り上げられているわけではなく、
総務や環境安全部などのサポート部門も貢献しています。
職場の安全は、全体としての協力と、組織全体のシームレスな機能によって実現されるものです。
つまり、改善活動が重要です。
気づいたら、すぐやる習慣を身につけましょう。
一代技術士事務所 鈴木
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